SSUGは会員の自己研鑽と相互の新睦を目的とする団体です。

中田清穂のIFRS徹底解説

第2回 「経済的耐用年数のあの手この手」

IFRSを適用する際に耐用年数への対応が問題となるケースが多いようです。
プロジェクト当初には、「従来の税務上の耐用年数表の耐用年数でいいでしょう」と言っていた会計監査人も、IFRSへの理解が深まるにつれて、「やはり利用実態に合った耐用年数にしなければ適切とは判断できません」と対応が変わるケースが増えているようです。

企業サイドとしては、理屈ではわかっていても、購入した資産ごとに取得した際に耐用年数を見積もることは非常に煩雑であり、税務メリットも受けにくくなるので、できれば避けたいところです。

そこでIFRSの趣旨を理解し、それを逆手にとってなるべく税法上の耐用年数に近づけたり、資産ごとの耐用年数の見積もりをしなくてすむような工夫が見られるようになりました。 特に利用実態を調査した結果、利用期間が税法上の耐用年数を大幅に超えるケースについては、なんとか従来の税法上の耐用年数にしたいものです。

今回はその例をいくつか紹介しましょう。

1.リペアパーツ関連の有形固定資産
部品や製品を製造するための機械や金型は、その部品や製品を量産する期間だけではなく、量産終了後も、修理や交換に備えて除売却しないで保有し続けることは、良く行われています。
このような機械や金型の経済的便益は、主に量産によって費消されるのであり、量産終了後にはほとんど経済的便益をもたらさないと言えるということで、当該有形固定資産の経済的耐用年数を、過去の「保有期間の実績」ではなく、過去の「保有期間のうち量産終了後の期間を含めない期間」とするのです。
その結果、税法上の耐用年数をそれほどかい離はしていないということで、IFRS適用後も税法上の耐用年数にする方向で会計監査人と協議することになります。
過去の「保有期間」を調査して、単純にそれを耐用年数にはしないで、「利用実態」をもう一段踏込んで分析して、その結果で判断することこそ、IFRSの趣旨に合っているということです。

2.利用期間の経年分析
全資産あるいは資産の種類ごとに過去の保有期間を調査すると、税法上の耐用年数を大幅に超えていても、取得した年代ごとに分析してみると、最近購入した資産については、技術革新や競争の激化などにより、昔に購入した資産と比較すると、利用期間が短くなる傾向がみられるケースが多いようです。
このような場合には、一概に税法上の耐用年数よりも長い耐用年数にすべきと判断しないで、今後購入する資産の耐用年数ですから、最近の傾向も勘案して決定すべきでしょう。 その結果、税法上の耐用年数をそれほどかい離はしていないということで、IFRS適用後も税法上の耐用年数にする方向で会計監査人と協議することになります。
過去の「保有期間」を調査して、単純にそれを耐用年数にはしないで、「取得年次ごとの利用実態」をもう一段踏込んで分析して、その結果で判断することこそ、IFRSの趣旨に合っているということです。
3.重要性規準の設定
個々の資産ごとに耐用年数を見積もるのは、重要性のある資産だけにして、重要性のない資産については従来通り税法上の耐用年数にする方向で会計監査人と協議することになります。
IFRS第16号「有形固定資産」には、重要性の判断規準は明記されていませんが、「財務報告のフレームワーク」に、すべての基準に横たわる基本的な考え方として「重要性」の考え方が明記されていますので、会計監査人が「IFRS第16号には重要性規定がないので、すべて厳格な処理をするように」と言ってきても、押し返せる理論的根拠になるでしょう。

ちなみに、有形固定資産の耐用年数の取扱いについては、IFRSと日本の企業会計制度の間に相違はありません。
いずれも経済的耐用年数です。
ところが、日本公認会計士協会が税法上の耐用年数としても、会計監査においては適切と判断するよう委員会報告で認めているので、日本の会計実務においては、経済的耐用年数ではなく、税法上の耐用年数を採用している企業がほとんどの状況になっています。
したがって、この論点はコンバージェンス対象とはなりません。
逆に、日本公認会計士協会が前述の委員会報告を廃止すると、IFRSと日本の会計実務に相違はなくなるので、注意が必要です。
つまり、この論点の会計実務差を解消するのは、ASBJでもなく、金融庁企業会計審議会でもなく、実は日本公認会計士協会なのです。

バックナンバー

最終回 「日本の会計基準とIFRSの「強制適用」」
第65回 「影響度調査の盲点」
第64回 「IFRS決算体制はいつから検討するか」
第63回 「IFRSの誤解:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある」
第62回 「棚卸資産の評価とAging(長期滞留)」
第61回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨(その2)」
第60回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨」
第59回 「IFRSの誤解:IFRSは投資家にとっても役に立たない」
第58回 「米国基準を適用している企業の動き」
第57回 「グループ会計方針での重要性の判断規準」
第56回 「開発費の償却費は原価算入するべきか?」
第55回「闇に葬られてしまった有給休暇引当金問題」
第54回「金融商品としての売掛金の開示」
第53回「馬鹿に出来ない!?最初のIFRS財務諸表をアニュアルレポートで開示するメリット」
第52回「単体財務諸表へのIFRS任意適用の動き」
第51回「中田版『IFRSの誤解』 子会社の会計方針の統一」
第50回「組替仕訳の繰越手続き(開始仕訳)の考え方」
第49回「金融庁「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」の「留意事項」と「重要性の方針の開示例」」
第48回「定率法の採用を表現している企業の開示」
第47回「グループ法人税制が与える連結決算への影響 中小特例の取扱い」
第46回 グループ法人税制が与える連結決算への影響
「連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き」

第45回 グループ法人税制が与える連結決算への影響「固定資産未実現に係る税効果の会計手続き」
第44回 「日本取引所(2015.03)の現金同等物の開示」
第43回 「HOYA(2015.03)の重要な会計方針の要約」
第42回 「丸紅の初度適用(短信からの初度適用)」
第41回 「改定されたIAS第1号「財務諸表の表示(開示イニシアチブ)」の
適用状況調査」

第40回 「連結決算短信での「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の記載状況」
第39回 「IFRS財団は日本の現状をどう見ているか」
第38回 「4つの会計基準収斂の方向性」
第37回 「IFRS適用の対応コスト」
第36回 「開示ボリュームを激減させる具体例」
第35回 「開発費資産計上の実態と分析」
第34回 「有給休暇引当金開示の実態と分析」
第33回 「注記情報の大幅削減が可能に!!」
第32回 「任意適用積み上げの動向と強制適用の可能性」
第31回 「膨大な注記への対応」
第30回 「さまざまなグループ会計方針書」
第29回 「IFRSでの勘定科目体系」
第28回 「影響度調査後のプロジェクト体制」
第27回 「グループ会計方針」
第26回 「影響度調査が終わったら」
第25回 「自民党・日本経済再生本部の「日本再生ビジョン」におけるIFRSの記載」
第24回 「影響度調査での重要性」
第23回 「IFRSの誤解:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる」
第22回 「有給休暇引当金の対応事例」
第21回 「有給休暇引当金を計上しないケース」
第20回 「資本的支出後の減価償却資産の償却方法等」
第19回 「新指数『JPX日経インデックス400』はIFRS任意適用拡大に影響があるか」
第18回 「グループ会計方針」
第17回 「中国子会社の決算期ズレへの対応方法」
第16回 「IFRSの任意適用拡大に向けての経団連の期待と役割」
第15回 「日本企業をダメにする会計制度(第3弾) ~リース会計~」
第14回 「日本企業をダメにする会計制度(第2弾)~のれん~」
第13回 「J-IFRS(日本版IFRS)のねらい」
第12回 「日本企業をダメにする会計制度~開発費会計~」
第11回 「IFRS任意適用の動向」
第10回 「減損の兆候」
第9回 「外貨建取引の換算と個別会計システム」
第8回 「支払利息の原価算入」
第7回 「耐用年数変更の記載事例」
第6回 「減価償却方法変更の記載事例」
第5回 「定額法への減価償却方法の変更の動向」
第4回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応(その2)」
第3回 「現在の決算手続きに影響を与えかねない経済的耐用年数の決定」
第2回 「経済的耐用年数のあの手この手」
第1回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応」

著者プロフィール

中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。