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中田清穂のIFRS徹底解説

第9回 「外貨建取引の換算と個別会計システム」

IAS第21号「外貨為替レート変動の影響」第21項に以下の規定があります。

外貨建取引は、機能通貨による当初認識においては、取引日における機能通貨と当該外貨間の直物為替レートを外貨額に適用して機能通貨で計上しなければならない。

また、同第22項では以下のように規定しています。

取引日は、取引がIFRSに従って最初に認識の要件を満たす日とする。実務上の理由から、取引日の実際レートに近似するレートが用いられることもある。 例えば、1週間又は1か月の平均レートが、当該期間に発生したそれぞれの外貨建のすべての取引に用いられることがある。 しかし、為替レートが著しく変動している場合には、一定期間の平均レートの使用は不適切となる。

以上を表にまとめると以下のようになるでしょう。

原則  取引日
認容  取引日の実際レートに近似するレート
   取引日の属する月の当月の平均相場
   取引日の属する月の当週の平均相場

これに対して、日本の税法での規定は、企業が外貨建取引を行った場合、その取引の円換算額は、取引を行ったときによる為替相場により換算した金額とします。
ただし、継続適用を要件に、取引の内容に応じ、合理的と認められる日(取引日の属する月の前月の末日や前月の平均相場)の相場により換算することもできます。

これを表にまとめると以下のようになります。

原則  取引日
認容
(継続適用が条件)
 取引日の属する一定日
   取引日の属する月の前日末日
   取引日の属する月の前週末日
   取引日の属する月の月の初日
   取引日の属する月の週の初日
取引日の属する一定期間の平均値
   取引日の属する月の前月の平均相場
   取引日の属する月の前週の平均相場

いずれの場合も「取引日」が原則です。

しかし、日本の会計実務では、取引日による原則的な取扱いではなく、認容されている手続を選択しているケースが多くあるようです。
その理由は、翌日以降にならないと判明しない取引日当日の為替レートを用いる原則法では、会計システムの夜間処理でその日のうちに換算処理をすることができないからです。
この場合、「初日」規定も含めて全て、取引が発生した日よりも過去のレートになります。

IFRSには、前月や前週など、過去のレートを用いる方法が明示されていないので、IFRSの規定を形式的に厳格適用すると、日本の認容規定による換算が認められなくなります。
特に、IFRSの主旨を理解せず、形式的な対応をする会計監査人などは、前月や前週のレートを用いることを認めないと表明しているケースがあるようです。

しかし、IAS第21号第22項の主旨は、「取引日の実際レートに近似するレート」を認めているので、前月や前週のレートが「取引日の実際レートに近似するレート」であれば、問題ないと思われます。

ただし、「為替レートが著しく変動している場合」には、平均レートの利用を禁止しているので注意が必要です。
「著しい変動」としては、20%などを提示している監査法人もあるようです。
20%ということは、100円から80円への変動ですが、昨今の為替相場を見ていると、ありえなくもない変動だと思われます。
「著しい変動」を20%にするのか、もっと幅を大きくするかは、個々の企業が決定し、会計監査人と協議して決めることになります。
最初から相談すると、厳しい基準になる傾向にあるので、きちんと自社で判断して協議することが望まれます。

また、外貨建取引を換算する処理について、個別会計システムでどのように対応しているかを確認しておくことは重要でしょう。
税務上の対応を前提として、変更があまりないということから、換算処理をプログラムに書き込んでいるケースであれば、おいそれと換算方法を変更することはできないでしょう。 また、為替レートのマスタで保持している場合にも、毎日の「取引日レート」が持てる構造になっているかどうかも、システム上重要なポイントになる場合がありますので、注意が必要でしょう。

ちなみに、日本の税務上、原則的な取扱いではなく、認容されている手続を選択する場合には、毎期「継続して」適用することが必要です。
これを変更する場合には、届出などが必要になります。
場合によっては、認められないケースもあるので、確認には十分ゆとりのあるスケジュールで対応することが望まれます。

なお、原則的な手続である「取引日」のレートで換算する場合には、いろいろな種類の外貨に関する為替レートを調査し、会計システムなどに入力する業務が、日常業務として発生します。
主要通貨であれば大手銀行から前日の為替レートを確認することができるのですが、主要通貨ではない通貨の場合には、迅速な調査ができないものもあるので、業務プロセスにも十分気をつける必要があると思います。

以上

バックナンバー

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第64回 「IFRS決算体制はいつから検討するか」
第63回 「IFRSの誤解:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある」
第62回 「棚卸資産の評価とAging(長期滞留)」
第61回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨(その2)」
第60回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨」
第59回 「IFRSの誤解:IFRSは投資家にとっても役に立たない」
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第12回 「日本企業をダメにする会計制度~開発費会計~」
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第9回 「外貨建取引の換算と個別会計システム」
第8回 「支払利息の原価算入」
第7回 「耐用年数変更の記載事例」
第6回 「減価償却方法変更の記載事例」
第5回 「定額法への減価償却方法の変更の動向」
第4回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応(その2)」
第3回 「現在の決算手続きに影響を与えかねない経済的耐用年数の決定」
第2回 「経済的耐用年数のあの手この手」
第1回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応」

著者プロフィール

中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。