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中田清穂のIFRS徹底解説

第10回 「減損の兆候」

日本の会計基準「固定資産の減損に係る会計基準」(以下「日本の減損基準」)でも、国際財務報告基準(IFRS)のIAS第36号「資産の減損」でも、いわゆる減損会計においては、減損の兆候の有無を評価することが要求されています。

しかし、日本の減損基準とIAS第36号とでは、減損の兆候の考え方に大きな違いがあります。類似している部分は割愛して、相違がある部分にフォーカスして説明します。

減損の兆候の考え方に相違があるのは以下の2点です。
1.「過去の結果か将来予測か」
2.営業キャッシュ・フローの取扱い
以下この2点について説明します。

1.「過去の結果か将来予測か」
日本の減損基準では、「二 減損損失の認識と測定」の「1.減損の兆候」の①として、以下の表現があります。

資産又は資産グループが使用されている営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローが、継続してマイナスとなっているか、あるいは、継続してマイナスとなる見込みであること

同適用指針では、第12項に該当します。

これに対して、IAS第36号には、上記日本の減損基準と同じ規定がありません。
つまり、「2期連続赤字」を減損の兆候として示していないのです。
その代わり、IAS第36号第12項(g)には、以下の規定があります。

(g) 資産の経済的成果が予想していたより悪化し又は悪化するであろうと
  いうことを示す証拠が、内部報告から入手できる。

この条項を補足する指針の位置づけで、第14項に以下の規定があります。

内部報告から入手した証拠で、資産が減損している可能性があることを示すものには、次のものの存在が含まれる。

(a) 当該資産の当初予算よりも極めて高額な、資産を取得するための
  キャッシュ・フロー、又はその後の資産の操業若しくは維持に必要な
  資金
(b) 予算よりも著しく悪化している、実際の正味キャッシュ・フローまたは
  資産から発生する営業損益
(c) 資産から発生する、予算化されていた正味キャッシュ・フロー若しくは
  営業利益の著しい悪化、又は予算化されていた損失の著しい増加
(d) 当期の数値を将来の予算上の数値と合計した場合の、当該資産に関する
  営業損失又は正味キャッシュ・アウトフロー

上記のように、日本の減損基準とIAS第36号の減損の兆候に関する規定を比較すると、日本基準は、「過去の結果の推移で兆候の有無を評価しようとしている」のに対して、IFRSは、「経営者の予測とのかい離」で兆候の有無を評価しようとしている」と言えるでしょう。

この結果、具体的には、以下のような状況で、GAPが生じます。

(1) 2期連続赤字でも、当初から実績と同程度の赤字予算が組まれて
  いた場合

この場合には、日本の減損基準では、減損の兆候があることになりますが、IAS第36号では、減損の兆候にはあたらないことになります。

(2) 2期連続黒字でも、当初予算では実績を著しく超える利益を
  想定した予算が組まれていた場合

この場合には、日本の減損基準では、減損の兆候がないことになりますが、IAS第36号では、減損の兆候があることになります。

2.営業キャッシュ・フローの取扱い
違いは上記だけではありません。
営業キャッシュ・フローの取扱いについても相違があります。

日本の減損基準では、同適用指針第80項に以下の記載があります。

管理会計上「営業活動から生ずる損益」と「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」の両方を把握している場合には、「営業活動から生ずる損益」によって、減損の兆候が判断される。

IFRSにはこのような規定はなく、IAS第36号第12項(g)で示したように、「損益」と「キャッシュ・フロー」に優先順位をつけていません。
日本の減損基準の適用指針第80項では、以下の前提があるようです。

(1) 「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」については、その把握
  が、管理会計上も「営業活動から生ずる損益」の把握と比べ
  一般的ではない。
(2) 「営業活動から生ずる損益」と「営業活動から生ずるキャッシュ・
  フロー」の両方から減損の兆候を把握することとすると、実務上、
  過度な負担となるおそれがあること。

言い換えれば日本の会計基準は、日本企業がいわゆる「キャッシュ・フロー経営」を一般的に実施していないことを前提としているのです。

そうであれば、現在企業会計審議会の一部委員が、「IFRSは日本の文化に合わない」と言っているのもうなずける気がしてきます。

逆に、今後IFRSで減損会計を実施すると、少なくとも、当初の損益予算を資金生成単位(資金グループごと)で策定する必要があるでしょう。
考えてみれば当たり前のことであり、従来実施していなかった日本の経営レベルの低さを露呈しているとも考えられます。
願わくば、当初予算を策定する際に、「キャッシュ・フロー」の見込も重要指標として、日本の経営者が取り込んで行くべきでしょう。

これは日本の企業文化に合わないのでしょうか。
日本企業には必要ないことなのでしょうか。

IFRSを研究する上で、IFRSの基本的な考え方を企業経営に取り込む、わかりやすいきっかけが、減損会計のGAPにあるような気がします。

以上

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著者プロフィール

中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。