SSUGは会員の自己研鑽と相互の新睦を目的とする団体です。

中田清穂のIFRS徹底解説

第16回 「IFRSの任意適用拡大に向けての経団連の期待と役割」

金融庁が6月20日に公表した「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(以下、最終報告書)の3ページ目の最終行から4ページ目にかけて、以下の記述があります。

(前略)IFRSの適用に際しての実務的な不確実性を緩和するための取組みについては、引き続き、関係者が協力して適切に対応していく必要がある。

この文章はとても抽象的で、具体的に「誰が何をすべきか」が明確ではないような印象を受けます。

私は、今年の3月以降の企業会計審議会の議事録をすべて読み返していく過程の中で、この文章を以下のように解釈しています。

IFRSを適用する上で、以下の点が実務上の問題としてあがっている。
(1) IFRSは「原則主義」で解釈に幅があり、深く理解しないで適用する
  と、「厳格主義」になりがちである
(2) IFRS適用委必要なコストが膨大になる。特に監査法人をはじめと
  するIFRSアドバイザリーは、「厳格主義」に走りがちで、いたずら
  にコストが膨れる傾向にある。
(3) IFRSの適用に向けて対応している企業のノウハウが、各企業の
  プロジェクトにとどまり、共有化されていない。このため、これから
  適用を検討する企業の効率性の向上に役立たない状況がある。
  したがって、上記3項目については、以下のように具体的な組織が
  それぞれの役割を果たすべきである。
(1) については、『ASBJ』が、機動的に国内指針を作成すること。
  すなわち、「原則主義」であるIFRSの日本での実務適用に向けた国
  内指針を策定する。
(2) については、『監査法人』がIFRS適用に向けてもっと協力的になる
  こと。
  すなわち、監査法人は、低コストで効率的なIFRS適用に向けて
  柔軟に対応するよう努力すること。
(3) については、『経団連』(日本経済団体連合会)が主体的にIFRS
  適用実務の共有化を図ること。
  すなわち、経団連は、IFRS適用企業の実例を集約して、今後IFRSを
  適用する企業の参考になる情報を共有できるようにすること。

私が、以上のように解釈したことには、根拠があります。
それは、今回の一連の企業会計審議会の審議と最終報告書の流れの中で、経団連関係の委員が発した意見が多く取り入れられていることがあります。
経団連の委員の主張がそのまま最終報告書になっているといっても過言ではないでしょう。

そうすると、この最終報告書と経団連が正式に公表している資料とは、密接につながっていると考えてもおかしくはないでしょう。

そこで、経団連が6月10日に公表した「今後のわが国の企業会計制度に関する基本的考え方~国際会計基準の現状とわが国の対応~」の表紙の次にある『今後のわが国の企業会計制度に関する基本的考え方 概要』と9ページ目を見ると、「任意適用を円滑に拡大する」施策として、上記項目が記載されているのです。

そして、上記項目の(3)として以下のように、具体的な内容が10ページ目に記載されています。

このような観点から、経団連では、「IFRS実務対応検討会」を設置し、各社の適用事例を参考事例集としてとりまとめている。経団連としては、任意摘要の円滑な拡大のために、引き続き、このような取組みを進めていく。

この資料にある「各社の適用事例を参考事例集」というのが、経団連から同じく6月10日に公表された、「IFRS 任意適用に関する実務対応参考事例」です。

ここには、経団連の「IFRS実務対応検討会」に参画している企業がIFRS対応をする中で、実際に以下の3項目について、どのように実務対応しているかがまとめられています。

1.有形固定資産の減価償却方法及び耐用年数
2.開発費の資産計上
3.連結の範囲・決算報告期間の統一

例えば、「B社」の有形固定資産の耐用年数に関する対応については、以下のような論理展開(理論武装)が示されています。


今後IFRSの任意適用を検討していく企業にとって、何とも頼もしい論理展開ではありませんか!

経団連は、日本の発言力を維持・増大させることが、日本の国益になると見極めています。

したがって、経団連は、企業会計審議会でも委員として重要な役割を担ってきました。

そして、最終報告書が出来上がった後は、まずは、(3)について、足元の経団連加盟企業のIFRS対応のノウハウを結集し、適用しやすくする役割も重要なものとして理解しているでしょう。

さらに、(1)の役割を担うASBJにも、経団連関係者が入り込み、国内向けの指針作りや、日本版IFRS(J-IFRS)の策定にも関与するでしょう。
実際、ASBJに設置された「IFRSのエンドースメントに関する作業部会」の19名の委員のうち、以下の5名が選出されています。

今給黎 真一 株式会社日立製作所 財務統括本部財務一部担当部長
加藤 治永  住友商事株式会社 総合経理部 部長代理
       アカウンティングリサーチチームリーダー
髙畑 修一  三菱重工業株式会社 経理統括部 主席部員
戸村 直大  株式会社東芝 財務主計担当グループ長
山床 眞一  新日鉄住金株式会社 財務部 決算室主幹

みな、経団連に深く関与している企業ばかりです。
そして、その肩書きを見ると、決算の現役バリバリで監査法人対応を一手に引き受けている人たちだといえるでしょう。

私は今、経団連にとても大きな期待をしています。

そして、残る課題である(2)についても、企業サイドの代表として、ぜひ「監査法人の柔軟な対応」に向けて働きかけてほしいものです。

「会計プロフェッションのプライド」を失い、専門家としての判断をあきらめ、「ロンドンのしもべ」として、右から左に決定事項を伝達するだけのCPAに、「喝!」を入れていただけると、これに勝る喜びはありません。

【文中の参考資料のリンク】
経団連が6月10日に公表した
「今後のわが国の企業会計制度に関する基本的考え方
~国際会計基準の現状とわが国の対応~」は、以下です。
http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/056.html

経団連が6月10日に公表した、
「IFRS 任意適用に関する実務対応参考事例」は、以下です。
http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/057.pdf

ASBJに設置された
「IFRSのエンドースメントに関する作業部会」の委員名簿は以下です。
https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/press_release/overseas/

href="pressrelease_20130725.jsp;jsessionid=9BABDD074296A5031A9210035921052B
以上

バックナンバー

最終回 「日本の会計基準とIFRSの「強制適用」」
第65回 「影響度調査の盲点」
第64回 「IFRS決算体制はいつから検討するか」
第63回 「IFRSの誤解:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある」
第62回 「棚卸資産の評価とAging(長期滞留)」
第61回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨(その2)」
第60回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨」
第59回 「IFRSの誤解:IFRSは投資家にとっても役に立たない」
第58回 「米国基準を適用している企業の動き」
第57回 「グループ会計方針での重要性の判断規準」
第56回 「開発費の償却費は原価算入するべきか?」
第55回「闇に葬られてしまった有給休暇引当金問題」
第54回「金融商品としての売掛金の開示」
第53回「馬鹿に出来ない!?最初のIFRS財務諸表をアニュアルレポートで開示するメリット」
第52回「単体財務諸表へのIFRS任意適用の動き」
第51回「中田版『IFRSの誤解』 子会社の会計方針の統一」
第50回「組替仕訳の繰越手続き(開始仕訳)の考え方」
第49回「金融庁「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」の「留意事項」と「重要性の方針の開示例」」
第48回「定率法の採用を表現している企業の開示」
第47回「グループ法人税制が与える連結決算への影響 中小特例の取扱い」
第46回 グループ法人税制が与える連結決算への影響
「連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き」

第45回 グループ法人税制が与える連結決算への影響「固定資産未実現に係る税効果の会計手続き」
第44回 「日本取引所(2015.03)の現金同等物の開示」
第43回 「HOYA(2015.03)の重要な会計方針の要約」
第42回 「丸紅の初度適用(短信からの初度適用)」
第41回 「改定されたIAS第1号「財務諸表の表示(開示イニシアチブ)」の
適用状況調査」

第40回 「連結決算短信での「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の記載状況」
第39回 「IFRS財団は日本の現状をどう見ているか」
第38回 「4つの会計基準収斂の方向性」
第37回 「IFRS適用の対応コスト」
第36回 「開示ボリュームを激減させる具体例」
第35回 「開発費資産計上の実態と分析」
第34回 「有給休暇引当金開示の実態と分析」
第33回 「注記情報の大幅削減が可能に!!」
第32回 「任意適用積み上げの動向と強制適用の可能性」
第31回 「膨大な注記への対応」
第30回 「さまざまなグループ会計方針書」
第29回 「IFRSでの勘定科目体系」
第28回 「影響度調査後のプロジェクト体制」
第27回 「グループ会計方針」
第26回 「影響度調査が終わったら」
第25回 「自民党・日本経済再生本部の「日本再生ビジョン」におけるIFRSの記載」
第24回 「影響度調査での重要性」
第23回 「IFRSの誤解:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる」
第22回 「有給休暇引当金の対応事例」
第21回 「有給休暇引当金を計上しないケース」
第20回 「資本的支出後の減価償却資産の償却方法等」
第19回 「新指数『JPX日経インデックス400』はIFRS任意適用拡大に影響があるか」
第18回 「グループ会計方針」
第17回 「中国子会社の決算期ズレへの対応方法」
第16回 「IFRSの任意適用拡大に向けての経団連の期待と役割」
第15回 「日本企業をダメにする会計制度(第3弾) ~リース会計~」
第14回 「日本企業をダメにする会計制度(第2弾)~のれん~」
第13回 「J-IFRS(日本版IFRS)のねらい」
第12回 「日本企業をダメにする会計制度~開発費会計~」
第11回 「IFRS任意適用の動向」
第10回 「減損の兆候」
第9回 「外貨建取引の換算と個別会計システム」
第8回 「支払利息の原価算入」
第7回 「耐用年数変更の記載事例」
第6回 「減価償却方法変更の記載事例」
第5回 「定額法への減価償却方法の変更の動向」
第4回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応(その2)」
第3回 「現在の決算手続きに影響を与えかねない経済的耐用年数の決定」
第2回 「経済的耐用年数のあの手この手」
第1回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応」

著者プロフィール

中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。