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中田清穂のIFRS徹底解説

第22回 「有給休暇引当金の対応事例」

日本経済団体連合会(以下、経団連)のIFRS実務対応検討会は、2014年1月15日に第4版となる「IFRS任意適用に関する実務対応参考事例」(以下、本対応参考事例)を公表しました。

第4版では、有給休暇引当金の対応事例が追加されました。

ここには、有給休暇引当金を計上するアプローチとして、「先入先出法アプローチ」と「後入先出法アプローチ」の二つがあることが説明されています。

まずはこの二つのアプローチに関する説明箇所を抜粋します。

1.先入先出法アプローチ
当期末未消化で繰り出された有給休暇日数のうち、翌期に消化が見込まれる日数分の債務(数では14日分)を追加金額として計上する。



先入先出法の見解として、以下のように記載されています。

「有給休暇繰越分のうち翌期消化見込み分については、当期に提供した勤務に基づき付与されたものであるため、当期末に引当計上する。」(見解1)

2.後入先出法アプローチ
当期に付与された範囲内で消化する限り、企業が当期の従業員の勤務の対価として負った当期に履行すべき義務の範囲内であり、「追加金額」は発生しないこととする。そして、翌期に繰り出された年次有給休暇のうち、翌期に翌期付与有給休暇日数を超えて消化が見込まれる日数分の債務を追加金額として計上する。(数、ケース1では追加金額は発生せず、ケース2では4日分の追加金額が計上される)




後入先出法の見解として、以下のように記載されています。

「当期付与分の有給休暇については、当期の労務費に織り込まれており、引当計上はしない。当期付与分を超えて消化されると見込まれる場合のみ、「追加金額」として引当計上する。」(見解2)

さらに、本対応参考事例では、3つ目のアプローチとして、「翌期首付与分も含めるアプローチ」の見解も記載されています。
「有給休暇繰越分のうち翌期消化見込み分(見解1)に加え、翌期首付与分の有給休暇のうち消化が見込まれる分についても、当期の勤務に伴って発生したものと考え、引当計上する。」

上記3つのアプローチでは、以下の順で計上金額が多くなります。

“翌期首付与分も含めるアプローチ”
  ↓
“先入先出法アプローチ”
  ↓
“後入先出法アプローチ”

計上金額が大きくなるほど、重要性の規準に抵触しやすく、実際の負債計上になりやすいでしょう。

IFRS実務対応検討会に参加した12社の対応状況は以下のように整理されています。

(1)先入先出法アプローチ(見解1)
B社、D社
(2)後入先出法アプローチ(見解2)
A社、C社、E社、J社、L社
(3)翌期首付与分を含めるアプローチ(見解1+α)
H社、I社、K社
(4)現在交渉中 その他
F社、G社

大混乱ですね。

日本企業の有給休暇制度は、労働基準法に則って就業規則として定められているので、実態に大きな違いはないはずです。

それなのに、これほどのバリエーションがあり、バラついた対応がされていることは、大きな問題だと思います。

私は、「後入先出法アプローチ」が正しいと考えています。

その根拠は、前月のコラム「有給休暇引当金を計上しないケース(2014/3/4)」の繰り返しになりますが、以下に示す、IAS第19号第15項の最後の一文です。

「ただし、権利確定しない(有給休暇の)権利の累積について、従業員がこれを使用する前に離職する可能性を、当該債務の測定に影響させる。」

「従業員がこれを使用する前に離職する可能性」というのは、退職する際に有給休暇を消化しないで退職する可能性です。

日本企業とりわけ製造業の多くでは、退職時にほとんど有給休暇を消化しないで会社を辞めることが、それほど珍しくないようです。

このような場合には、退職した人が退職した年にどれだけ有給休暇の権利を放棄してやめているのかについて実態調査して、有給休暇の負債を計上する際の測定に反映させる必要があります。
極端な場合には、退職した人がほとんど有給休暇をとらないようであれば、有給休暇引当金は計上しないことになるでしょう。

つまり、付与された有給休暇を毎年消化しないで、退職の際にも消化されていないという事実があるならば、毎期有給休暇引当金を負債として計上する必要はないだろうということです。

こういった考え方をしていること自体、「後入先出法アプローチ」であることの証だと思います。

要は、将来の負債を認識する「資産負債アプローチ」なのです。

言い換えれば、「今年働いたという役務の提供」と、「次期以降休んでも給料が支払われる」という期間帰属的な考えからくる「損益アプローチ」の本質的な違いだと思います。

IFRSは言うまでもなく「資産負債アプローチ」なのです。

ただ、本対応参考事例で記載されている3つのアプローチに関する見解は、基本的に期間帰属的な考えからくる「損益アプローチ」のように感じます。

このあたりに、まだIFRSへの理解が監査法人を通しても、十分にされていないと感じています。


【文中の参考資料のリンク】

経団連が1月15日に公表した、
「IFRS 任意適用に関する実務対応参考事例」は、以下です。
http://www.keidanren.or.jp/policy/ifrs_jirei.html


以上

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第64回 「IFRS決算体制はいつから検討するか」
第63回 「IFRSの誤解:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある」
第62回 「棚卸資産の評価とAging(長期滞留)」
第61回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨(その2)」
第60回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨」
第59回 「IFRSの誤解:IFRSは投資家にとっても役に立たない」
第58回 「米国基準を適用している企業の動き」
第57回 「グループ会計方針での重要性の判断規準」
第56回 「開発費の償却費は原価算入するべきか?」
第55回「闇に葬られてしまった有給休暇引当金問題」
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第41回 「改定されたIAS第1号「財務諸表の表示(開示イニシアチブ)」の
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第40回 「連結決算短信での「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の記載状況」
第39回 「IFRS財団は日本の現状をどう見ているか」
第38回 「4つの会計基準収斂の方向性」
第37回 「IFRS適用の対応コスト」
第36回 「開示ボリュームを激減させる具体例」
第35回 「開発費資産計上の実態と分析」
第34回 「有給休暇引当金開示の実態と分析」
第33回 「注記情報の大幅削減が可能に!!」
第32回 「任意適用積み上げの動向と強制適用の可能性」
第31回 「膨大な注記への対応」
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第29回 「IFRSでの勘定科目体系」
第28回 「影響度調査後のプロジェクト体制」
第27回 「グループ会計方針」
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第25回 「自民党・日本経済再生本部の「日本再生ビジョン」におけるIFRSの記載」
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第23回 「IFRSの誤解:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる」
第22回 「有給休暇引当金の対応事例」
第21回 「有給休暇引当金を計上しないケース」
第20回 「資本的支出後の減価償却資産の償却方法等」
第19回 「新指数『JPX日経インデックス400』はIFRS任意適用拡大に影響があるか」
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第17回 「中国子会社の決算期ズレへの対応方法」
第16回 「IFRSの任意適用拡大に向けての経団連の期待と役割」
第15回 「日本企業をダメにする会計制度(第3弾) ~リース会計~」
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第13回 「J-IFRS(日本版IFRS)のねらい」
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第11回 「IFRS任意適用の動向」
第10回 「減損の兆候」
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第7回 「耐用年数変更の記載事例」
第6回 「減価償却方法変更の記載事例」
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第4回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応(その2)」
第3回 「現在の決算手続きに影響を与えかねない経済的耐用年数の決定」
第2回 「経済的耐用年数のあの手この手」
第1回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応」

著者プロフィール

中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。