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中田清穂のIFRS徹底解説

第23回 「IFRSの誤解:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる」

【誤解】IFRSのリース会計基準には300万円ルールなどがないので、ファイナンス・リースは少額物件でも資産として認識する必要がある。
  ↓
【実際】IFRSのリース会計基準には、日本基準にある300万円ルールなどの明確な数値規準はないが、重要性の考え方があるので、ファイナンス・リースでも少額であれば資産として認識する必要はない。
ただし、各企業で重要性の判定する数値基準を設定する必要がある。

私はIFRS対応プロジェクトの現場で、全く異なる対称的な対応をしたケースを目の当たりにしました。

一つは、IFRSを適用するに際して、日本基準である、いわゆる300万円ルールをそのまま踏襲して、300万円未満のリース契約については、従来通りオフバランスとする手続きにしたケースです。
これを「従来ケース」としましょう。

もう一つは、IFRSを適用するに際して、300万円ルールを採用せず、有形固定資産会計における少額資産と同じように、20万円以上のファイナンス・リース契約をすべて資産として認識する手続きにしたケースです。
これを「厳格ケース」としましょう。

「従来ケース」の根拠は、

従来日本基準で処理した連結財務諸表が、著しく実態とかい離していたわけではない。したがって、監査報告書でも、投資家の意思決定に有用な財務情報として「適正意見」を表明していたはずである。ゆえに、従来の数値基準が必ずしもIFRSにおいて否定されるべきものではない。

というものです。

「厳格ケース」の根拠は、

有形固定資産会計とリース会計で重要性の判断基準が異なるというのは整合性に欠ける。
したがって、リース会計についても20万円ルールを適用する。

というものです。

どちらが正しいというわけではありません。

大切なポイントは、自社での重要性の考え方をきちんと確立しておくことです。
そうしないと、厳格な対応を迫りがちな会計監査人に対して、自社の主張を説明することができなくなります。
「軸」となる自主基準をもっていないからです
そうなると、監査人からの「アドバイス」で結果として、連結財務諸表に大した影響のないリース契約まで資産として認識せざるを得なくなります。
これではリース台帳に登録する物件数も膨大になり、その会計処理も大変煩雑なものになります。

私個人の意見としては、上場企業の規模にもかなりの差はありますが、1件300万円の物件が連結財務諸表に大きな影響を与えることは少ないのではないかと感じます。
したがって、せっかくIFRSで日本基準と異なる重要性の判断規準が作れるのであれば、日本基準よりもゆるやかなものにして、連結財務諸表に与える影響が大きくないことを主張するべきと思います。

ただし、ここで注意が必要なのは、個々の取引での重要性の判断基準と、同種の取引が多数あって、その合計でみた重要性の判断規準とでは、きちんと区別して基準を検討する必要があるということです。

例えば、営業用のリース車両が1台200万円くらいであっても、連結グループ全体で同様の営業用のリース車両が1000台利用されていれば、全体では20億円という金額の影響について重要性の判断をすべきということです。

実は、公益財団法人財務会計基準機構(FASF)が2014年2月5日に開催した「ASBJオープン・セミナー」で、IASB理事の鶯地隆継氏が、最近のリース会計の動向について、興味深い講演をされていました。
その講演の中で、現在IASBはリース会計の会計基準の改訂作業を行っているが、2013年に公開した再ED(公開草案)に対して、世界中から、特に財務報告の作成サイドから大変強い反対意見が寄せられたようで、その反対意見への対応の一つとして、「少額リースに対するコスト面の救済措置」が議論されているというお話がありました。

この『少額リース(small ticket leases)』という考え方が、IFRSの基準設定プロセスにおいて出てきていることについて、大変気になります。

その講演で鶯地氏は、
「この『少額』というのが、日本基準の300万円ルールのようなものになるのか、いくらになるのか、そして、個々の金額だけではなく、合計した金額での取り扱いも議論されている」という説明をされていました。

そもそもリース会計がIFRSで見直され、リース契約がどんどんオンバランスの方向で検討されて来たのは、航空会社の航空機の多くがオペレーティング・リースとして取り扱われ、資産として貸借対照表のどこにも計上されておらず、到底納得できないという意見も大きく影響していたといわれています。
そうであるならば、航空会社の航空機のような、本当にその企業のビジネスにとって重大な物件についてのみオンバランスすることが主旨であるはずなので、それ以外のケースでは従来通りオフバランスで構わないのではないかという意見があってもおかしくないでしょう。

したがって、日本基準のリース会計における300万円ルールや有形固定資産会計の20万円ルールなどを経験してきた日本企業が、IFRSと対峙する局面で、「自社にとっての重要性とはなにか」について、きちんと検討できる能力があるかどうかが問われることになるでしょう。

そうでなければ、不必要に僅少な取引についても、煩雑な処理をせざるをえなくなるのです。

以上

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第62回 「棚卸資産の評価とAging(長期滞留)」
第61回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨(その2)」
第60回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨」
第59回 「IFRSの誤解:IFRSは投資家にとっても役に立たない」
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第2回 「経済的耐用年数のあの手この手」
第1回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応」

著者プロフィール

中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。