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中田清穂のIFRS徹底解説

第30回 「さまざまなグループ会計方針書」

IFRS対応を早くから進めてきた企業では、すでにグループ会計方針の策定を終えて、影響を受ける業務プロセスやシステムの変更を洗い出し、実行計画を策定する段階になっています。

ここで一言で「グループ会計方針書」といってもさまざまな内容のものが作成されています。
「グループ会計方針書」の内容に変化を与えるのが、IFRSの基準書との関係です。 特に日本企業の社内文書なので、IASBのIFRS基準書ではなく、ASBJが監訳している日本語の基準書の影響を受けます。

影響を受けるのは以下の項目です。

 1. 章立て
 2. 原文の取込みかた
 3. 仕訳例や具体例

1. 章立て

「グループ会計方針書」の章立てをどのようにするのかを決める際に、以下の選択があります。

(1) IFRS基準書と同じ順番で「グループ会計方針書」の章立てを構成する。
この場合には、「グループ会計方針書」の章立てで以下のような順番になります。
① IFRS第1号「初度適用」
② IFRS第2号「株式報酬」
③ IFRS第3号「企業結合」
   ・
   ・
   ・
(2) IFRSとは異なる順番で「グループ会計方針書」の章立てとする。
この場合には、総論と各論に部を分けて、各論は財務諸表の表示順にします。
例えば、以下のような順番です。
第1部 総論
 ①  「グループ会計方針書」の目的
 ②  「グループ会計方針書」の適用範囲
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     ・
第2部 各論
 ① 金融商品(現金)
 ② 棚卸資産
 ③ 有形固定資産
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     ・

(1)の場合には、IFRSの基準書と同じなので、章立てを考える必要がありませんし、「グループ会計方針書」とIFRSの基準書の関連づけ(リファレンス)が取りやすいというメリットがあります。
(2)の場合には、財務諸表の表示順なので、経理担当者にとって理解しやすく、使いやすいというメリットがあります。

2. 原文の取込みかた

「グループ会計方針書」の本文にどこまでIFRSの基準書の文章を取り込むかは、実に悩ましい問題です。
自社グループの会計方針を、IFRSの原則に準拠した形にするならば、IFRSの基準書の規定文を、そのまま取り込めば良いのですが、IFRSの基準書の文章はとても難解で、決算実務ではとても使える表現内容ではないのです。

ここで、実際に「グループ会計方針書」を策定しているプロジェクトの例を見ると、以下のように類別できます。

(1) IFRSの基準書の規定文をそのまま取り込む
このパターンは、「グループ会計方針書」としての表現方法について悩むことからは解放されますが、500から600ページにもなる文書になりながら、内容はほとんどIFRSの基準書に書いてあるものとほとんど同じになります。
自社グループにとって必要ないものを削除しただけといったものになります。
「グループ会計方針書」を作成したという達成感は得られるものの、決算実務にはそのままではほとんど役に立たないものになってしまいます。
実は、現在IFRS対応プロジェクトで、監査法人やコンサルタント会社が作成する「グループ会計方針書」はこのパターンです。
膨大なコストが発生するのに、決算実務にはほとんど使えないために、企業サイドで作り直さなければならない状況が頻発しているので、十分な注意が必要です。
監査法人やコンサルタント会社に「グループ会計方針書」の作成を依頼する場合には、数ページを作成させて、「理解しやすいか」「自社の決算担当者にわかる書き方になっているか」という点をチェックして、満足できるレベルであれば、同じレベルで「グループ会計方針書」の全ページを依頼するという、2段階方式が良いでしょう。
なお、このパターンは、IFRSの基準書の大幅な改訂だけでなく、年次改訂という、毎年行われるマイナーな変更についても、きちんとキャッチアップしなければ、有効な「グループ会計方針書」にはならなくなり、毎年のメンテナンスについても工数がかかるので、注意が必要です。
したがって、この方法は、「労多くして益少なし」と言えるパターンです。

(2) IFRSの基準書の規定文は網羅するものの、表現をわかりやすくする
このパターンは(1)の変形です。(1)のパターンが、「わかりにくい」という致命的な欠点を持っているので、そのポイントを補う方法です。
しかし、「わかりやすい」文章にするには、経理・決算の知識や経験とは、全く異なる「文章表能力」が必要とされます。
また、わかりやすい文章にする前提として、IFRSの規定文の本質を十分に理解する必要があります。
最もニーズのあるパターンとは思われますが、「文章表現能力」と「IFRSの理解力」を備えた人物がいないと実現性がありません。
IFRSを熟知している担当者やアドバイザー、及び、文章表現力のある担当者やアドバイザーが、作成に参画するか、レビューを依頼するなどの補完的な手続きが有効でしょう。

(3) IFRSの基準書の規定文はほとんど取り込まない
この方法は、(1)(2)とは全く異なるものです。
IFRSの基準書の内容は、毎年市販されるので、その内容と同じものを社内文書として書き起こすのはナンセンスだという考え方です。
グループ各社は、毎年IFRSの基準書を購入することを前提とし、「グループ会計方針書」は、IFRSの基準書には記載されていない内容のみを表現するのです。

したがって、この場合には以下の項目を「グループ会計方針書」に記載します。
① IFRSの基準のパラグラフ(項)の見出し
IFRSの基準の規定文は、パラグラフ(項)が分かれていますが、ほとんどについて見出しがないので、中身の文章を読まないと何を規定しているパラグラフ(項)なのかがわからないのです。
グループ各社が毎年IFRSの基準書を購入しても、それだけで理解することはなかなか期待できません。したがって、見出しによってIFRSの理解を進める効果が得られるでしょう。

② IFRSの基準の中で選択適用が認められている場合に、自社グループが選択した処理や方法
IFRSの規定文そのものは記載しませんが、選択適用が認められている場合には、どちらを選択したのかを、「グループ会計方針書」に明記します。

③ IFRSの基準の文章について解釈に幅がある場合に、自社グループで採用した解釈
IFRSの規定文をそのまま読んだだけでは、十分に正確な理解が得られない場合には、その理解を促す文章を記載します。

④ 自社グループの企業活動特有の取引や契約がある場合に、IFRSの原則に準拠した範囲で採用した会計処理や会計手続き
いわゆる「自社グループ固有の取引」に関する取扱いです。

3. 仕訳例や具体例

IFRSにはほとんど仕訳例や具体的な処理方法が記載されていません。
そこで、「グループ会計方針書」には、自社グループでの経理・決算手続きの実務対応のための仕訳例や具体例を記載することは、非常に有効と言えるでしょう。
しかし、実際のIFRS対応プロジェクトでは、このような仕訳例や具体例について、「グループ会計方針書」に明記するパターンと、「グループ会計方針書」には明記しないで、別途「グループ会計マニュアル」とか「グループ会計方針のガイダンス」といった別文書として作成されるケースが多いようです。

以上、IFRS対応プロジェクトで作成されている「グループ会計方針書」について、3つの観点で整理しましたが、実際には、これら3項目の組み合わせで対応されているので、いろいろな様式の「グループ会計方針書」が作成されています。

「グループ会計方針書」を作成する上で注意すべきポイントは以下です。
(a) 誰が利用するのか(責任者レベルか担当者レベルか)
(b) メンテナンスの頻度(IFRSは年次改訂があるので、膨大なページ数だとメンテナンスができなくなる)
(c) 仕訳例や具体例は、どのレベルの文書にするか(方針書かマニュアルやガイダンスか)


以上

バックナンバー

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第62回 「棚卸資産の評価とAging(長期滞留)」
第61回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨(その2)」
第60回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨」
第59回 「IFRSの誤解:IFRSは投資家にとっても役に立たない」
第58回 「米国基準を適用している企業の動き」
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第41回 「改定されたIAS第1号「財務諸表の表示(開示イニシアチブ)」の
適用状況調査」

第40回 「連結決算短信での「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の記載状況」
第39回 「IFRS財団は日本の現状をどう見ているか」
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第33回 「注記情報の大幅削減が可能に!!」
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第5回 「定額法への減価償却方法の変更の動向」
第4回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応(その2)」
第3回 「現在の決算手続きに影響を与えかねない経済的耐用年数の決定」
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第1回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応」

著者プロフィール

中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。