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中田清穂のIFRS徹底解説

第31回 「膨大な注記への対応」

IFRSでは、注記に記載すべき情報が膨大になるので、ただでさえ現在の決算業務が厳しい中、重大な課題になります。

工数が大幅に増加するだけでなく、形式やレベル感など、その内容も単純には決められないので、頭を悩ませることになります。

IFRSベースの注記を作成する上で参考になるのは、以下の資料です。
(1) 金融庁のひな型
(2) 大手会計事務所の開示例
(3) 日本の先行開示事例
(4) EUのIFRS適用会社の開示事例

上記資料を参考にする上で重要なポイントは以下です。
(a) 根拠条文が示されているか
(b) 開示項目が「必須なのか、任意なのか」を判別すること
(c) 財務諸表本表と整合性をもたせるのか、マネジメント・アプ
  ローチによるものなのかを判別すること
(d) 定量情報や定性情報をどのように表現したらいいのかをイメージ
  できること

開示の実務では、無駄な開示はしたくないでしょうし、かといって、開示もれは避けたいところです。

(1)の金融庁のひな型には、根拠条文が記載されていて、マネジメント・アプローチによる場合もそれとわかる表現がされています。
しかし、必須項目が網羅的に表現されてはいないようです。
また、(d)のイメージのしやすさという点でも物足りないと思います。
金融庁の開示例は、以下のサイトから入手できます。
http://www.fsa.go.jp/news/21/sonota/20091218-1.html

(2)の大手会計事務所の開示例は、各監査法人のサイトで無料で入手できる場合が多いようです。
筆者が大手監査法人のいくつかの開示例をレビューして最も参考になると評価したのが、あずさ監査法人(KPMG)の開示例です。
最も参考になると評価した最大のポイントは、(a)から(d)の全てのポイントを満たしている点です。
特に開示例の前に、根拠条文を明記した上で、その開示要求の解説をわかりやすく説明しています。
あずさ監査法人のサイトにあるKPMGの開示例は、以下のサイトで無料で入手できます。
http://www.kpmg.com/jp/ja/knowledge/article/ifrs-guide-to-financial-statements/pages/default.aspx

(3)の日本の先行開示事例はまだ数社しかありませんが、開示の内容はその粗密において、相当バラつきがあります。
その中で、筆者が最も参考になると評価しているのが、日本板硝子の有価証券報告書です。
他社と比べて、基準の開示要求の主旨をきちんと理解して、形式的な開示ではなく、投資家の意思決定に重要と思われる項目はきちんと開示しているように見受けられます。
また、開示の程度も、具体的にしすぎて細かすぎるようなこともなく、逆に全く具体性がないかといえば、そうでもなく、ある程度開示している項目の程度がうかがい知れるようなレベルに感じました。
現在の担当者は相当理解力があり、センスの良い方だと感じました。
日本板硝子の2012年3月期の有価証券報告書は、以下のサイトから入手できます。
http://www.nsg.co.jp/ja-jp/investors/ir-library/securities-reports

(4)のEUの開示事例は、かなりの数に上りますが、やはりバラつきが激しいので、どれか一つを参考にするというのは、難しいところです。
したがって、同業他社の数社分を集めて、いろいろな開示事例を比較して、開示のレベルや基準の開示要求の主旨を理解するための参考にすると良いでしょう。

以上のように、IFRSの開示(注記)は、その種類が多い上に、一つひとつについて、何を開示すべきか、どのように開示すべきか、どのレベルまで開示すべきかを、自社で決定することが必要ですし、さらにこれまで開示したことのないものばかりです。

したがって、まずは
① 自社のひな型を早めに作成し、
② 親会社のデータでだけでも一度作ってみて、
③ そしてある程度開示のボリュームと難易度をつかんだ後で、子会社
  にRP(Reporting Package)に入力してもらって、
  連結ベースの開示につなげる
といった流れが良いと思います。

EUでも2005年にIFRSが導入された際には、この注記の開示にかかる工数が最も大きく、想定以上に大変だったと言われています。
また、多くの漏れや間違いが発生したようです。

IFRSへの対策は、まずは基本財務諸表に関する項目の理解や分析から入りますが、開示の検討が相当後回しになることが多いようですので、自力で対応するにしても、監査法人にアドバイザリーを依頼するにしても、開示の検討がなおざりにならないよう気をつけていただきたいと思います。

バックナンバー

最終回 「日本の会計基準とIFRSの「強制適用」」
第65回 「影響度調査の盲点」
第64回 「IFRS決算体制はいつから検討するか」
第63回 「IFRSの誤解:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある」
第62回 「棚卸資産の評価とAging(長期滞留)」
第61回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨(その2)」
第60回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨」
第59回 「IFRSの誤解:IFRSは投資家にとっても役に立たない」
第58回 「米国基準を適用している企業の動き」
第57回 「グループ会計方針での重要性の判断規準」
第56回 「開発費の償却費は原価算入するべきか?」
第55回「闇に葬られてしまった有給休暇引当金問題」
第54回「金融商品としての売掛金の開示」
第53回「馬鹿に出来ない!?最初のIFRS財務諸表をアニュアルレポートで開示するメリット」
第52回「単体財務諸表へのIFRS任意適用の動き」
第51回「中田版『IFRSの誤解』 子会社の会計方針の統一」
第50回「組替仕訳の繰越手続き(開始仕訳)の考え方」
第49回「金融庁「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」の「留意事項」と「重要性の方針の開示例」」
第48回「定率法の採用を表現している企業の開示」
第47回「グループ法人税制が与える連結決算への影響 中小特例の取扱い」
第46回 グループ法人税制が与える連結決算への影響
「連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き」

第45回 グループ法人税制が与える連結決算への影響「固定資産未実現に係る税効果の会計手続き」
第44回 「日本取引所(2015.03)の現金同等物の開示」
第43回 「HOYA(2015.03)の重要な会計方針の要約」
第42回 「丸紅の初度適用(短信からの初度適用)」
第41回 「改定されたIAS第1号「財務諸表の表示(開示イニシアチブ)」の
適用状況調査」

第40回 「連結決算短信での「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の記載状況」
第39回 「IFRS財団は日本の現状をどう見ているか」
第38回 「4つの会計基準収斂の方向性」
第37回 「IFRS適用の対応コスト」
第36回 「開示ボリュームを激減させる具体例」
第35回 「開発費資産計上の実態と分析」
第34回 「有給休暇引当金開示の実態と分析」
第33回 「注記情報の大幅削減が可能に!!」
第32回 「任意適用積み上げの動向と強制適用の可能性」
第31回 「膨大な注記への対応」
第30回 「さまざまなグループ会計方針書」
第29回 「IFRSでの勘定科目体系」
第28回 「影響度調査後のプロジェクト体制」
第27回 「グループ会計方針」
第26回 「影響度調査が終わったら」
第25回 「自民党・日本経済再生本部の「日本再生ビジョン」におけるIFRSの記載」
第24回 「影響度調査での重要性」
第23回 「IFRSの誤解:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる」
第22回 「有給休暇引当金の対応事例」
第21回 「有給休暇引当金を計上しないケース」
第20回 「資本的支出後の減価償却資産の償却方法等」
第19回 「新指数『JPX日経インデックス400』はIFRS任意適用拡大に影響があるか」
第18回 「グループ会計方針」
第17回 「中国子会社の決算期ズレへの対応方法」
第16回 「IFRSの任意適用拡大に向けての経団連の期待と役割」
第15回 「日本企業をダメにする会計制度(第3弾) ~リース会計~」
第14回 「日本企業をダメにする会計制度(第2弾)~のれん~」
第13回 「J-IFRS(日本版IFRS)のねらい」
第12回 「日本企業をダメにする会計制度~開発費会計~」
第11回 「IFRS任意適用の動向」
第10回 「減損の兆候」
第9回 「外貨建取引の換算と個別会計システム」
第8回 「支払利息の原価算入」
第7回 「耐用年数変更の記載事例」
第6回 「減価償却方法変更の記載事例」
第5回 「定額法への減価償却方法の変更の動向」
第4回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応(その2)」
第3回 「現在の決算手続きに影響を与えかねない経済的耐用年数の決定」
第2回 「経済的耐用年数のあの手この手」
第1回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応」

著者プロフィール

中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。