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中田清穂のIFRS徹底解説

第37回 「IFRS適用の対応コスト」

4月15日に金融庁から「IFRS適用レポート」(以下、本レポート)が公表されました。
同日開催された企業会計審議会会計部会では、委員全員から絶賛されたものです。

本レポートは、IFRSを任意適用したか、適用することを正式に公表した企業を対象にアンケートとヒアリングを行った調査の結果報告です。

調査の具体的内容は以下です。

1.質問調査票調査:
(1) 2月28日までにIFRSを任意適用した企業(40社)
(2) 2月28日までにTDnetで適用予定を公表した企業(29社)
   計69社(国内非上場企業2社を含む)
うち、回答企業は65社(回収率94.2%)。

2.ヒアリング調査:65社のうち28社に対して直接実施

一般的にこのような調査は、中立かつ公平に行われないことも多いので、注意が必要です。

特に、本適用レポートは、日本においてIFRSの任意適用企業の拡大推進のために、金融庁自らが作成したものです。

つまり、持っていきたい方向性(任意適用の拡大促進)があって実施された調査であり、まとめられた報告書なのです。

ここで、私が関心をもったポイントは、IFRSを任意適用した企業が、実際にかけた「コスト」(IFRS移行コスト)に関する調査結果とその報告の仕方です。

本レポートの9ページ目に以下の図2があります。

【図2】IFRSへの移行に直接要した総コスト別の企業数(売上規模別)


この図を示しながら、金融庁の油布企業開示課長は、企業会計審議会会計部会で、以下のような説明をしています。

<以下、抜粋>
ここから1つ読み取れることは、山が2つあるということです。
ちょうど「1億円以上、5億円未満」というところに1つの山がありますが、一番左の「5,000万円未満」というところにももう1つの山があるということでございます。

この5,000万円未満といいますのは、相対的にもちろん売上規模が小さい会社が多いということです。
(中略)
このトータルでの移行コストにつきましては、まずIFRS導入の目的やメリットとして何に重点を置くかということでも変わってくるということでございます。
経営管理の高度化というものに重点を置いた移行のやり方をする場合には、システムの全面改修まで行われるということがございます。
そういう場合には、期間やコストも比較的かかるということでございます。

他方で、IFRSの導入のメリットとして、同業他社との比較可能性、あるいは投資家への説明の容易さを挙げた企業が多くございましたけれども、こうした企業の場合には、場合によっては連結仕訳による調整だけで対処する、あるいは連結仕訳の調整中心に対応するということが考えられるということで、このパターンの場合には全体のコストは比較的小さなものになるということでございます。
(中略)
やはり規模が相対的に小さく、かつ単一事業であるような場合には、こうした対応が可能になることが多いということでございます。
<抜粋以上>

この説明を、皆さんはどのように受けとめ、感じられるでしょうか。

私は、今後IFRSを適用する企業を拡大推進させていく上で、ポイントになるのは、上場企業の中でも中堅クラス以下の企業だろうと思います。

大規模企業は、グローバル展開している企業が多く、日本経済に少なからぬ影響力があるとの自覚があるということと、移行コストを負担できる能力も高いので、放っておいても対応していくでしょう。

金融庁は、そちらよりも中堅クラス以下の企業を心配しているように感じます。

そこで、「IFRS移行コストはそんなにかかりませんよ」というメッセージを伝えたいのではないでしょうか。

さらに考えたくはないかもしれませんが、近い将来「強制適用」となった時にも、中堅クラス以下の企業が不安に感じている「移行コスト」については、「そんなにかからないことは、すでに調査で判明しているから問題ない」という根拠に使われるのかもしれません。

ここで気になる情報があります。
2015年3月4日の日本経済新聞朝刊(1面トップ)の記事です。
この記事の最後の文章は、

「金融庁は過去に15年から国際基準を強制適用することを検討したが、東日本大震災の影響で11年6月に強制適用を延期した。」

というものでした。

ところが、同日の日本経済新聞電子版の記事では、

「金融庁は過去に15年から国際基準を強制適用することを検討したが、東日本大震災の影響で11年6月に強制適用を延期した。」

という文章の次に、以下の文章が追加されていたのです。

「元金融庁長官でIFRS財団の佐藤隆文評議員は『採用企業が増えれば強制適用の議論にも影響する』と話す。」

これは聞き捨てならない文章です。

今後IFRSの任意適用企業が増えていけば、「強制適用」を検討し始めるということです。

2013年6月に金融庁企業会計審議会が作成した「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(いわゆる「当面の方針」)で、文字通り「当面先送り」された「強制適用」について、検討を始めるということです。

その時に、2009年から2010年にかけて、日本中が「IFRS襲来」などと大騒ぎになった反省を踏まえて、「強制適用になってもそんなに大したことにはなりませんよ」という「伏線」を、本レポートで貼っているようにも思われます。

たかが新聞記事ですが、金融庁の元長官のコメントということでもあり、おろそかにはできないように感じています。

【文中の参考資料のリンク】
http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/siryou/kaikei/20150415/01.pdf

バックナンバー

最終回 「日本の会計基準とIFRSの「強制適用」」
第65回 「影響度調査の盲点」
第64回 「IFRS決算体制はいつから検討するか」
第63回 「IFRSの誤解:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある」
第62回 「棚卸資産の評価とAging(長期滞留)」
第61回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨(その2)」
第60回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨」
第59回 「IFRSの誤解:IFRSは投資家にとっても役に立たない」
第58回 「米国基準を適用している企業の動き」
第57回 「グループ会計方針での重要性の判断規準」
第56回 「開発費の償却費は原価算入するべきか?」
第55回「闇に葬られてしまった有給休暇引当金問題」
第54回「金融商品としての売掛金の開示」
第53回「馬鹿に出来ない!?最初のIFRS財務諸表をアニュアルレポートで開示するメリット」
第52回「単体財務諸表へのIFRS任意適用の動き」
第51回「中田版『IFRSの誤解』 子会社の会計方針の統一」
第50回「組替仕訳の繰越手続き(開始仕訳)の考え方」
第49回「金融庁「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」の「留意事項」と「重要性の方針の開示例」」
第48回「定率法の採用を表現している企業の開示」
第47回「グループ法人税制が与える連結決算への影響 中小特例の取扱い」
第46回 グループ法人税制が与える連結決算への影響
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第45回 グループ法人税制が与える連結決算への影響「固定資産未実現に係る税効果の会計手続き」
第44回 「日本取引所(2015.03)の現金同等物の開示」
第43回 「HOYA(2015.03)の重要な会計方針の要約」
第42回 「丸紅の初度適用(短信からの初度適用)」
第41回 「改定されたIAS第1号「財務諸表の表示(開示イニシアチブ)」の
適用状況調査」

第40回 「連結決算短信での「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の記載状況」
第39回 「IFRS財団は日本の現状をどう見ているか」
第38回 「4つの会計基準収斂の方向性」
第37回 「IFRS適用の対応コスト」
第36回 「開示ボリュームを激減させる具体例」
第35回 「開発費資産計上の実態と分析」
第34回 「有給休暇引当金開示の実態と分析」
第33回 「注記情報の大幅削減が可能に!!」
第32回 「任意適用積み上げの動向と強制適用の可能性」
第31回 「膨大な注記への対応」
第30回 「さまざまなグループ会計方針書」
第29回 「IFRSでの勘定科目体系」
第28回 「影響度調査後のプロジェクト体制」
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第22回 「有給休暇引当金の対応事例」
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第20回 「資本的支出後の減価償却資産の償却方法等」
第19回 「新指数『JPX日経インデックス400』はIFRS任意適用拡大に影響があるか」
第18回 「グループ会計方針」
第17回 「中国子会社の決算期ズレへの対応方法」
第16回 「IFRSの任意適用拡大に向けての経団連の期待と役割」
第15回 「日本企業をダメにする会計制度(第3弾) ~リース会計~」
第14回 「日本企業をダメにする会計制度(第2弾)~のれん~」
第13回 「J-IFRS(日本版IFRS)のねらい」
第12回 「日本企業をダメにする会計制度~開発費会計~」
第11回 「IFRS任意適用の動向」
第10回 「減損の兆候」
第9回 「外貨建取引の換算と個別会計システム」
第8回 「支払利息の原価算入」
第7回 「耐用年数変更の記載事例」
第6回 「減価償却方法変更の記載事例」
第5回 「定額法への減価償却方法の変更の動向」
第4回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応(その2)」
第3回 「現在の決算手続きに影響を与えかねない経済的耐用年数の決定」
第2回 「経済的耐用年数のあの手この手」
第1回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応」

著者プロフィール

中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。