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中田清穂のIFRS徹底解説

第52回「単体財務諸表へのIFRS任意適用の動き」

平成27年11月10日、金融庁金融審議会でディスクロージャーワーキング・グループの第1回の会議が開催されました。

これは、平成27年6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015」の中で、以下の内容が記載されたことによることが、ディスクロージャーワーキング・グループの会議に提出された、事務局作成の資料からわかります。
 以下が、その資料の記載内容です。

 企業の情報開示については、投資家が必要とする情報を効果的かつ効率的に提供するため、金融審議会において、企業や投資家、関係省庁等を集めた検討の場を設け、会社法、金融商品取引法、証券取引所上場規則に音づく開示を検証し、重複排除や相互参照の活用、実質的な監査の一元化、四半期開示の一本化、株主総会関連の日程の適切な設定、各企業がガバナンス、中長期計画等の開示を充実させるための方策等を含め、統合的な開示の在り方について今年度中に総合的に検討を行い、結論を得る。

ここで留意すべきは、「単体財務諸表へのIFRS任意適用」に関する記載は全くないということです。

ところが、このディスクロージャーワーキング・グループの1回目の会議で、橋本委員(青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授)が、突如、以下のような発言をしたのです。

私は国際会計基準をちょっとやっている関係で、できればIFRSの個別、単体の開示も認めていただくような方向の議論も、多少できたらと思っていいます。

私は、強い違和感を覚えました。
閣議決定で議論すべき内容に含まれていない項目なので、唐突感をぬぐえませんでした。

そして、年が変わり、平成28年2月19日の第3回ディスクロージャーワーキング・グループの会議で、再び橋本委員が以下の発言をしています。

本来は連単、あくまでも一体が原則でありまして、(中略)今すぐにということではないエスけど、方向性として議論を進めて、将来的にIFRSの任意適用の積み上げを図るというような、そういう最高戦略のメッセージもありますので、それの弊害、師匠にならないようにということと、それから、ほんとうにIFRS任意適用企業の側に、単体もIFRSでという要望があるのかどうかも確認した上で、ぜひこちらの方向に勧めていただきたいと思っております。
(中略)
特にこの2016年から18年ぐらいが日本にとって、IASBのいろんな活動に関しても重要な時期ですので、ぜひ検討を始めていただきたいということをお願いいたします。

この件に関して他の委員の発言として、太田委員(弁護士(西村あさひ法律事務所))の以下の発言があります。
少しブレーキがかった発言に感じられます。

単体についてIFRSに従うということになった場合には、会社法上の配当規制との絡みも当然出てきますし、確定決算主義を通して、当然租税法上の取扱いに影響を及ぼすわけです。
そういう意味では、非常に制度的波及効果が多いことになるわけで、これを実際やろうとする場合には、会社法、それから、租税法の見直しが必須になってくると思われます。
そういう意味では、費用対効果の観点から見ると、非常に大ごとであるように思っております。

また、関根委員(日本公認会計士協会副会長)も以下の発言をしています。
基本的には、単体へのIFRS適用の議論を開始すべきとの意見と思います。

2012年7月に中間的論点整理が出て、もう4年経ってきていますので、再度検討をしていく、議論を始める時期に来ているのではないかと思っています。
先ほど税や配当の問題等が出ていましたけれども、さらにIFRSについては、世界的に使われているものの、主に連結で使われているということで、実際にIFRS単体に使ったときにどうなるかといったことも含めて、しっかり議論していく必要があるのではないかと思っておりまして、検討を始める方向性がいいのではないかと思っております。

そして、第5回ディスクロージャーワーキング・グループの会議では、いよいよ金融庁の企業開示課の田原課長が、以下の発言をしています。

一部のIFRSの任意適用会社からは事務負担軽減のために、単体の開示あるいは会社法上の計算書類についてもIFRSに準拠して作成することを認めてほしいという要望があるところでございます。
一方、この要望に対応する際には、会社法上、配当等に関する財源規制の話や、課税上の取り扱いなど、他の制度においても手当てが必要となるということでございますので、まずもってどの程度上場会社の皆様にニーズがあるのかということが重要であろうかと思います。
こうした上場会社等のニーズを踏まえながら、検討を始めていくことが需要ではないかと理解をしております。

やはり、単体へのIFRS適用を推進する立場と感じられます。

この流れを見て、私は、閣議決定では盛り込まれなかった「単体へのIFRS適用」でありますが、金融庁が議論の開始を強く望み、その意向を受けた橋本委員がきっかけを作り、議論を前に進めたように感じました。

そして、今年(2016年)4月18日の金融審議会で、ディスクロージャーワーキングの報告書としてまとめられ、承認されました。

今後有価証券報告書では、連結財務諸表だけでなく、単体財務諸表にもIFRSを適用することが認められることになるように思います。

以上

バックナンバー

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第62回 「棚卸資産の評価とAging(長期滞留)」
第61回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨(その2)」
第60回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨」
第59回 「IFRSの誤解:IFRSは投資家にとっても役に立たない」
第58回 「米国基準を適用している企業の動き」
第57回 「グループ会計方針での重要性の判断規準」
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第3回 「現在の決算手続きに影響を与えかねない経済的耐用年数の決定」
第2回 「経済的耐用年数のあの手この手」
第1回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応」

著者プロフィール

中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。