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中田清穂のIFRS徹底解説

第65回 「影響度調査の盲点」

今回は、「影響度調査」をする上で、おろそかになりがちな観点についてお話したいと思います。

影響度調査を自社で自力で行う場合でも、監査法人に協力してもらっている場合でも、以下のような観点がおろそかになり、問題が生じやすいようです。

(1) 連結の観点
親会社、販売子会社、製造子会社、海外会社など、拠点別の「影響度調査表」や「Fit&GAP表」を作成して、会計差異を把握していくアプローチだと、連結決算ベースの会計方針、決算業務及び連結決算システムへの影響に気がつかない。

例1)
IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に基づくと、親会社が他へ販売する商品を仕入れる際に、子会社を通す場合には、当該子会社は「代理人」として取り扱われます。
となると、当該子会社では、売上高を総額計上できず、仲介手数料として、純額でしか損益計算書に計上できません。
当該子会社は親会社に対する手数料収入を計上し、親会社は当該子会社からの仕入れを計上するので、連結決算システムの定義設定を変えないでおくと、連結決算手続きでの「損益取引の消去仕訳」を適切に作成できなくなる恐れがあります。

例2)
IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に基づくと、販売時にボリュームディスカウントなどが予想できる場合、その予想される値引きを差し引いた額で売上高を計上することとなります。
製造子会社が親会社などに製品を売却する場合で、ボリュームディスカウントは親会社が年間取引量で決定するような場合には、四半期の時点では、値引き率が確定していませんが、製造子会社は、1年後に親会社が決める値引き率を予想して、四半期の売上高から差し引く必要があります。
このようなケースは自動車産業によく見受けられます。
しかし、製品を購入する親会社は、四半期では仕入れについて値引きを考慮しません。
このように、連結消去手続きの際に、売上高と仕入高の突き合わせが煩雑になるケースがあるのです。
したがって、このようなケースを見落とさないようにするためにも、個社ごとの調査だけでなく、連結ベースでの影響も常に念頭に置く必要があるのです。


(2) 会計基準間の関連性の観点
会計基準の論点別に調査をしていくアプローチだと、他の会計基準の論点の影響を受けることに気がつかない。

例1)
棚卸資産会計の会計基準の差異はあまりないが、有形固定資産会計や退職給付会計で相違がある場合、日本基準とIFRSとで有形固定資産の減価償却費や退職給付費用の算出額に違いが生じ、結局製造間接費として原価計算に影響を与えるので、棚卸資産の金額にも違いが発生します。

(3) システム関連の観点
会計基準の論点別に調査をしていくアプローチだと、一つのシステムにどのような影響があるのかが把握しづらい。また、システムに重要な影響があるのに、検討が後回しになり、システム対応が遅れてしまう。

例1)
会計基準の論点別に日本基準とIFRSの相違を洗い出し、会計システムでの対応を検討すると、一つひとつについては、複数帳簿を持つ必要はなく、修正または組替仕訳で対応できそうな場合も多いでしょう。しかし、直接法のキャッシュ・フロー計算書への対応のための勘定科目体系や、遡及処理への対応を合わせて検討すると、複数帳簿システムの方が、実は、導入期間や導入コスト、さらには業務効率についても、合理的な場合があるのです。

例2)
会計基準の論点別の検討の際に、貸借対照表や損益計算書などの「基本財務諸表」に関心が集中しがちで、注記などの検討がおろそかになりがちです。
IFRSの注記のボリュームは、予想外に膨大で、しかもひな型や標準フォームなどはなく、企業ごとに実体に合った表現をするのが原則なので、形式もばらばらです。
したがって、各システムから注記に必要なデータを取り出せるようにする必要がありますが、大体注記関連の検討は後回しにされるので、実はシステム変更をともなう注記事項への対応が、間にあわなくなり、結局決算担当者があちこちのシステムのアウトプットからエクセルなどに転記する業務が爆発的に増えるのです。

(4) 経営管理上の観点
会計基準の差異ばかりに気を取られて、経営情報に関して混乱が発生することを見落とす。

例1)
「最低限のIFRS対応が基本」ということで、原価計算も日本基準ベースとIFRSベースで計算し、経営情報としては従来の日本基準ベースの原価を使用し、開示用としてはIFRSベースの原価を採用することにすると、社内に2つの原価が存在することになります。
製造業にとって製品原価は、ビジネスそのものですが、それが2つあると、混乱を招くでしょう。

影響度調査が終わっても安心しないで、上記観点がもれていなかったかどうか、確認することが望まれます。

以上

バックナンバー

最終回 「日本の会計基準とIFRSの「強制適用」」
第65回 「影響度調査の盲点」
第64回 「IFRS決算体制はいつから検討するか」
第63回 「IFRSの誤解:IFRSは時価会計的でM&Aのためにある」
第62回 「棚卸資産の評価とAging(長期滞留)」
第61回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨(その2)」
第60回 「IFRSの誤解:海外子会社の機能通貨」
第59回 「IFRSの誤解:IFRSは投資家にとっても役に立たない」
第58回 「米国基準を適用している企業の動き」
第57回 「グループ会計方針での重要性の判断規準」
第56回 「開発費の償却費は原価算入するべきか?」
第55回「闇に葬られてしまった有給休暇引当金問題」
第54回「金融商品としての売掛金の開示」
第53回「馬鹿に出来ない!?最初のIFRS財務諸表をアニュアルレポートで開示するメリット」
第52回「単体財務諸表へのIFRS任意適用の動き」
第51回「中田版『IFRSの誤解』 子会社の会計方針の統一」
第50回「組替仕訳の繰越手続き(開始仕訳)の考え方」
第49回「金融庁「IFRSに基づく連結財務諸表の開示例」の「留意事項」と「重要性の方針の開示例」」
第48回「定率法の採用を表現している企業の開示」
第47回「グループ法人税制が与える連結決算への影響 中小特例の取扱い」
第46回 グループ法人税制が与える連結決算への影響
「連結法人間の寄附金に係る税効果の会計手続き」

第45回 グループ法人税制が与える連結決算への影響「固定資産未実現に係る税効果の会計手続き」
第44回 「日本取引所(2015.03)の現金同等物の開示」
第43回 「HOYA(2015.03)の重要な会計方針の要約」
第42回 「丸紅の初度適用(短信からの初度適用)」
第41回 「改定されたIAS第1号「財務諸表の表示(開示イニシアチブ)」の
適用状況調査」

第40回 「連結決算短信での「会計基準の選択に関する基本的な考え方」の記載状況」
第39回 「IFRS財団は日本の現状をどう見ているか」
第38回 「4つの会計基準収斂の方向性」
第37回 「IFRS適用の対応コスト」
第36回 「開示ボリュームを激減させる具体例」
第35回 「開発費資産計上の実態と分析」
第34回 「有給休暇引当金開示の実態と分析」
第33回 「注記情報の大幅削減が可能に!!」
第32回 「任意適用積み上げの動向と強制適用の可能性」
第31回 「膨大な注記への対応」
第30回 「さまざまなグループ会計方針書」
第29回 「IFRSでの勘定科目体系」
第28回 「影響度調査後のプロジェクト体制」
第27回 「グループ会計方針」
第26回 「影響度調査が終わったら」
第25回 「自民党・日本経済再生本部の「日本再生ビジョン」におけるIFRSの記載」
第24回 「影響度調査での重要性」
第23回 「IFRSの誤解:300万円ルールなどがないIFRSではすべてのリースがオンバランスになる」
第22回 「有給休暇引当金の対応事例」
第21回 「有給休暇引当金を計上しないケース」
第20回 「資本的支出後の減価償却資産の償却方法等」
第19回 「新指数『JPX日経インデックス400』はIFRS任意適用拡大に影響があるか」
第18回 「グループ会計方針」
第17回 「中国子会社の決算期ズレへの対応方法」
第16回 「IFRSの任意適用拡大に向けての経団連の期待と役割」
第15回 「日本企業をダメにする会計制度(第3弾) ~リース会計~」
第14回 「日本企業をダメにする会計制度(第2弾)~のれん~」
第13回 「J-IFRS(日本版IFRS)のねらい」
第12回 「日本企業をダメにする会計制度~開発費会計~」
第11回 「IFRS任意適用の動向」
第10回 「減損の兆候」
第9回 「外貨建取引の換算と個別会計システム」
第8回 「支払利息の原価算入」
第7回 「耐用年数変更の記載事例」
第6回 「減価償却方法変更の記載事例」
第5回 「定額法への減価償却方法の変更の動向」
第4回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応(その2)」
第3回 「現在の決算手続きに影響を与えかねない経済的耐用年数の決定」
第2回 「経済的耐用年数のあの手この手」
第1回 「有形固定資産(初度適用)のみなし原価の実務対応」

著者プロフィール

中田 清穂(なかた せいほ)
青山監査法人にて米国基準での連結財務諸表監査に7年間従事。
旧PWCに転籍後、連結経営システム構築プロジェクト(約10社)に従事。
その他に経理業務改善プロジェクトや物流管理プロジェクトにて、現場業務の現状分析や改善提案に参画。
旧PWC退社後、DIVA社を設立し、取締役副社長に就任。DIVA社退社後、独立。