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税務会計業務のポイント

第112回 「中小企業における移転価格税制の基礎」

最近は、日本企業が海外に製造部門を移管し、その海外に現地法人である子会社を設立することが増えてきております。その際、海外子会社との取引価格を決めることになりますが、親子関係では比較的自由に価格設定できる関係にあるので、その価格が行き過ぎたものにならないよう移転価格税制により規制しています。

なぜ移転価格税制は必要か?
海外子会社からの仕入価格を通常よりも高めの価格に設定すれば、本来は日本で発生すべき利益が海外に移転します。このように取引価格を調整して、税率が高い日本の利益を税率が低い国の子会社へ移転することで、グループ全体の税引前の利益を変えずにグループ全体の税負担額を下げることが可能となってしまいます。日本の国税当局は国内企業からしか税金の徴収ができないため、取引価格の操作により海外に利益が移転したときには税金の徴収が難しくなります。そこで、このような日本から海外への利益移転を防止するために移転価格税制が必要とされています。

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移転価格税制による課税方法は?
移転価格税制では、海外子会社など(「国外関連者」といいます)との取引で、日本から海外へ利益が移転してしまう価格設定で行われているものについて、その取引価格を第三者と行われる適正な取引価格(「独立企業間価格」といいます)で行われたとみなして、その差額について課税がされます。
この適正価格である独立企業間価格については、国税当局も何か算定のもととするものがなければ課税することが困難です。そこで、その取引の概要や事業の概要、独立企業間価格の決定方法など、海外子会社との取引が第三者と同様のルールのもと行われていることの説明を記載した『独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)』の作成等する義務(Q3参照)を課しています。 もし、税務調査でローカルファイルを求められ、企業がこれを提出できない場合には、税務当局は独自に独立企業間価格を算定し、所得の金額を再計算することができます。

どんな取引が対象となるのか?
日本の企業が海外に子会社を設立し取引をはじめると、企業規模や取引量に関係することなく「移転価格税制」や「国外関連者に対する寄附金」という取引価格などにスポットをあてた税務上の検討事項が発生します。
これらの対象となる取引は、①資産の販売、②資産の購入、③役務の提供、④その他の取引で第三者であれば対価を当然もらうすべての取引(「国外関連取引」といいます)で、例えば、商品等の輸出入、特許や商標、ノウハウなど無形資産の売買や使用許諾、経理や人事の代行、各種の技術指導などのサービス、融資の保証などで、日本から海外に利益が移転しているものがその対象となります。したがって、国内の取引、日本の企業の海外支店などとの取引は対象となりません。

中小企業における移転価格税制のポイント
(Point 1) ローカルファイルへの対応について
 国外関連者との取引があり、税務調査で要請があったときは、取引金額にかかわらず、ローカルファイルを提出等する必要があります。ただ、すべての取引について作成することは労力と費用を要するため、例えば、A社との取引規模が30億円、B社との取引規模が100万円であるときは、調査において問題になりそうな国外関連者との取引(例えばA社)から優先的に作成を行っていくことをお勧めします。
(Point 2) 移転価格と国外関連者への寄附
 「移転価格税制」と「国外関連者への寄附金」の区分けは難しいことが多く、中小企業では比較的短期間での税務調査や課税判断が可能である国外関連者への寄附金による指摘を受けるケースが多くなります。 海外子会社が負担すべき出張旅費や出向者給与を国内親会社が負担している場合等には、国外関連者への寄附金と指摘を受けることがありますので、適正な対価を収受するなどの対策が必要となります。

Q1.海外子会社は国外関連者になるようですが、その範囲について教えてください。

A1.海外の法人で、自社が発行済株式の50%以上を直接又は間接に保有する法人が基本的にその範囲となります。50%以上ですので、他社との持株割合が丁度半分半分の合弁会社などもその対象となります。また、形式的な基準である持株関係の他に、役員の兼務や事業活動、資金の依存など事業方針を決定できる実質的に支配している関係にある海外の法人も対象となります。

Q2.独立企業間価格はどのように決められるものですか。

A2.独立企業間価格は、国外関連者との取引がその取引と同様の状況下、第三者との間で成立すると認められる価格をいい、具体的には次の基本3法などで算定した中で最も適切と考えられる金額となります。
① 独立価格比準法(CUP法、自社と第三者との価格を参考に決める方法)
② 再販売価格基準法(RP法、自社と第三者との売上総利益率を参考に決める方法)
③ 原価基準法(CP法、自社と第三者とのマークアップ率を参考に決める方法)

Q3.ローカルファイルの内容及び提出期限について教えてください。

A3.ローカルファイルは国外関連取引に関する取引概要や事業概要、機能及びリスク分析、独立企業間価格の決定方法及び経済分析などを記載した書類となります。ローカルファイルの提出期限は下記の通りとなります。期限内に提出等がされない場合には推定課税や同業者調査が行われます。
項目
同時文書化義務(※2)あり
同時文書化義務なし
 ローカルファイル又は
 ローカルファイルに
 相当する書類
 45日以内の調査官が
 指定する日まで
 60日以内の調査官が
 指定する日まで
 独立企業間価格を
 算定するために重要と
 認められる書類(※1)
 60日以内の調査官が
 指定する日まで
 60日以内の調査官が
 指定する日まで
   (※1) ローカルファイルに記載された内容の基礎となる事項を記載した書類等をいいます。
(※2) 国外関連取引の合計金額(前事業年度等)が50億円以上又は無形資産取引の合計金額(前事業年度等)が3億円以上ある場合には、確定申告書の提出期限までにローカルファイルを作成、取得、保存(「同時文書化義務」といいます)する必要があります。

Q4.納税猶予中に事業の継続が出来なくなってしまった場合の減免制度について詳しく教えてください。

A4.直前の会計年度のグループ売上規模が1,000億円以上の多国籍のグループに属している国内の法人等は、『最終親会社等届出事項』、『国別報告事項』及び『事業概況報告事項』(マスターファイル)を国税電子申告・納税システム(e-Tax)で国税当局に提供する必要性が生じる可能性がありますので確認が必要です。また、仮に親会社が非上場であっても金融商品取引所等に上場するとしたならば、連結財務諸表を作成することとなるものも対象となりますのでご注意ください。

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バックナンバ

第125回「所得控除の活用による所得税の節税対策」
第124回「年末調整の変更点とポイント」
第123回「海外進出時の税務上のポイント」
第122回「民法改正(相続編)の概要と施行時期」
第121回「節税目的の定期保険等の通達改正について」
第120回「消費税率引き上げ直前の確認事項」
第119回 「役員給与に関する税務のポイント」
第118回 「賃上げ等の促進に係る税制」
第117回 「平成31年3月決算の税務申告のポイント」
第116回 「平成30年分所得税確定申告のポイント」
第115回 「法人税に関する2019年税制改正のポイント」
第114回 「平成31年度 税制改正(速報)」
第113回 「電子申告義務化のポイント」
第112回 「中小企業における移転価格税制の基礎」
第111回 「平成30年税制改正で大きく改正された特例事業承継税制について」
第110回 「消費税の軽減税率制度」
第109回 「法人の税務調査の基礎知識」
第108回 「中小企業向け補助金の活用」
第107回 「出向者給与に係わる税務上の取扱い」
第106回 「相続対策で重要な3つの対策」
第105回 「平成30年3月決算の税務申告のポイント」
第104回 「平成30年税制改正:電子申告の義務化とそれに伴う整備」
第103回 「仮想通貨に関する所得税の取り扱い」
第102回 「平成30年度 税制改正(速報)」
第101回 「国際電子商取引に係る消費税の課税」
第100回 「平成29年度税制改正による所得拡大促進税制について」
第99回 「法定相続情報証明制度」
第98回 「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)」
第97回 「設備投資に対する中小企業優遇税制」
第96回 「積立NISAについて」
第95回 「個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)の活用」
第94回 「海外勤務者の税務上の留意点」
第93回 「平成29年3月決算の税務申告のポイント」
第92回 「(確定申告特集)マイホームの譲渡所得について」
第91回 「平成29年税制改正を踏まえた所得拡大促進税制のおさらい」
第90回 「平成29年度税制改正について」
第89回 「ふるさと納税と義援金」
第88回 「平成28年「年末調整」の留意事項について」
第87回 「設備投資に対する優遇措置について」
第86回 「税務調査関連の改正について」
第85回 「租税条約の基礎と実務上の留意点」
第84回 「平成28年度改正でさらに要件緩和されたスキャナ保存制度について」
第83回 「相続税の基礎知識(計算編)」
第82回 「適格請求書等保存方式(インボイス方式)の導入について」
第81回 「平成28年4月から始まる新税制」
第80回 「平成28年3月決算の申告ポイント」
第79回 「平成27年確定申告のポイント」
第78回 「平成28年度税制改正大綱のまとめ」
第77回 「『国外財産調書』と『財産債務調書』について」
第76回 「マイナンバー制度に関する税務の再確認」
第75回 「贈与税の取扱について」
第74回 「国境を越えた役務提供に係る消費税」
第73回 「税務調査の時期がこれから到来します」
第72回 「役員の登記に関する改正と役員報酬の決定」
第71回 「消費税軽減税率の動向について」
第70回 「マイナンバーで変わる経理と対応費用の取扱いについて」
第69回 「スキャナ保存制度の要件が緩和されます」
第68回 「平成27年3月期決算の税務ポイント」
第67回 「平成26年分確定申告のポイント
第66回 「平成27年度税制改正(速報)」
第65回 「生産性向上設備投資促進税制の特別償却と税額控除のどちらを選択するか」
第64回 「平成28年1月より適用されるマイナンバー制度に備えて」
第63回 「2015年1月より適用される相続・贈与の主要改正点」
第62回 「役員に関する経費の注意点」
第61回 「骨太方針を受けた法人税改革の方向性」
第60回 「消費税8%後に注意すべき事項」
第59回 「生産性向上設備投資促進税制の実務ポイント」
第58回 「所得拡大促進税制の改正ポイント」
第57回 「交際費の枠が4月から広がります」
第56回 「いよいよ3月決算、新税制の適用をお忘れなく」
第55回 「平成26年1月から適用される税制」
第54回 「平成26年度税制改正(速報)」
第53回 「年末調整における平成25年の改正点と注意点」
第52回 「消費税増税に対応する販売戦略について」
第51回 「10月1日、8%消費税増税が決定。同時に税制改正大綱も発表されました。」
第50回 「外国法人・非居住者に対する支払と源泉徴収義務」
第49回 「新年度から適用が始まる法人税制 その3」
第48回 「消費税転嫁対策法の成立で税率引き上げに向けての事前準備を」
第47回 「新年度から適用が始まる法人税制 その2」
第46回 「新年度から適用が始まる法人税制 その1」
第45回 「平成25年3月期 決算・申告にあたっての留意点2」
第44回 「平成25年3月期 決算・申告にあたっての留意点」
第43回 「平成25年度税制改正について(速報)」
第42回「復興特別税 会社の法人税申告における税額控除で注意すべき点」
第41回「2013年から始まる復興特別所得税
     会社における源泉実務で注意すべき点」

第40回 「2012年も年末調整の時期に突入」
第39回 「税務調査手続きが明確に」
第38回 「消費税改正に向けて企業が対処すべき課題とは?」
第37回 「現物給与と隣接経費の取扱い」
第36回 「社会保障と税の一体改革」
第35回 「決算期の変更を行う会社が増えているようです」
第34回 「株主総会終了後の重要な手続きをお忘れなく」
第33回 「調査にも種類はいろいろ」
第32回 「決算前、税効果会計の適用税率に注意」
第31回 「消費税率の引き上げで企業はどうする?」
第30回 「多くの企業に影響のある税制改正はどうなった? ~平成23年税制改正の成立と24年改正大綱の発表~」
第29回 「消費税改正への対応を進めるには・・・」
第28回 「平成23年税制改正で中間申告はどう変わった?」
第27回 「税務当局への相談方法の種類は?」
第26回 「急激な円高進行 為替換算に大きな変動があった際のポイントとは?」
第25回 「消費税95%ルールの見直しは要注意!」
第24回 「6月30日を越えて平成23年税制改正の動向は?」
第23回 「過年度遡及会計基準と税務の取り扱いについて」
第22回 「東日本大震災における特別税務(法人関係)と平成23年税制改正の今後」
第21回 「グループ法人税制と連結納税制度の比較」
第20回 「税務調査への対応とポイント」
第19回 「全面適用開始! グループ法人税制」
第18回 「会社清算時の課税の変更について」
第17回 「経営不振の子会社・関連会社の支援を行う場合」
第16回 「出向者給与の取扱い」
第15回 「決算書からわかる経営分析」
第14回 「帳簿書類等の保存について」
第13回 「税金のペナルティーいろいろ」
第12回 「修繕費と資本的支出の区分」
第11回 「事業承継税制 贈与税の納税猶予」
第10回 「役員給与の減額改定について」
第9回 「上場有価証券の税務上の評価損について」
第8回 「欠損金の繰戻し還付制度について」
第7回 「海外子会社配当の益金不算入制度の創設について」
第6回 「証券税制について」
第5回 「交際費等と寄附金」
第4回 「報酬・料金等に係る源泉徴収制度について」
第3回 「中小企業に対する優遇税制について」
第2回 「貸倒損失の税務上の処理について」
第1回 「取締役及び監査役の責任範囲と訴訟リスクについて」

プロフィール

アクタスマネジメントサービス㈱/アクタス税理士法人

税理士、公認会計士、社会保険労務士など100名を超えるプロフェッショナルが中心となり、クライアントのライフステージに応じたあらゆるニーズに対応したサービスを提供してます。http://www.actus.co.jp/